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  深夜、あるいは明け方というべきか。午前四時、ラブホテルからの通報だった。  お客二人が遺体で発見されたという。      現場に駆けつけたときには二人とも既に事切れていた。男は吐瀉物にまみれ、女は胸から血を流して死んでいた。女の顔からは無惨にも化粧が剥がれ落ちていた。  ラブホテルでこの手の事件が起きた場合、男女とも全裸のことが多いのだが、今回は多少の着衣の乱れはあるが、二人とも服を着ていた。  我々、警察より数分遅れて救急車がやってきた。消防署員は一瞥して既に手遅れなことが判ると遺体解剖の手続きについて話し合った、彼らは遺体をのせてその場を去った。  現場にはワープロ打ちの遺書がテーブルに置かれていた。 『女を殺して私も死にます。女が憎い』  枕元には市販のビールやジュースの空缶が転がっていた。ホテルの冷蔵庫にあるドリンク類は手をつけた形跡がない。持ち込まれたものと推われる。  署に帰った後、我々は第一発見者である男に事情を訊くことにした。 「あなたは殺された二人とどういう関係ですか」 「……女はデリヘルの女でして。男はその客です」 「何だ。デリヘルって」 「まあ、新手の風俗ですよ。エステティシャンとか、コンパニオン募集とかの求人広告で集めた女をピザの出前みたいにホテルや自宅まで配達するんですね。私はその送り迎えです。 「客がおまえのところに電話するのか」 「まあ、そうです。公衆電話のピンクチラシや風俗雑誌を見て電話してくるわけです。それで指定された場所にこちらから送り届けるわけです」 「売春だな」 「いや……、でも本番はないんで」  男は口を濁した。 「料金体系はどうなってんだ」 「六十分、一万七千円のコース、それから百二十分、三万円のコース。……あと、出張料金は三千円でアナルは追加料金、八千円です」「儲けてんだろうな」 「……いやそんなことないです」  第一発見者によると殺された男はその客だという。約束の時間が過ぎても一向に連絡が取れないし、部屋から出てくる気配もないので不審に思いフロントに説明して開けてもらったところ女も男も死んでいたという。  所持品から二人の身元はすぐ割れた。  男は山崎信一、三十四歳 銀行員。ホテルの近くのマンションに一人暮し。  女は細野めぐみ、二十四歳。マンションに一人暮らし。市内にあるアパレル会社で事務員として働いていた普通のOL。週末だけアルバイトでデリヘル嬢をしていたらしい。きっかけはエステティシャン募集の求人広告を見て電話してきたという。 「普通のOLが小遣い稼ぎにデリヘルやってたんですねぇ」  報告書をのぞき込むようにして柴谷が言う。  柴谷を無視して書類に再び目を落とす。  死因は男の方は臭化ジスチグミンを大量に摂取したことによる服毒死。女の方は刃物による刺殺。出血多量死。  単なる自殺かと推われる事件だ。  「心中か? 」 「見ず知らずの女を道連れにして心中なんかしますかねぇ」  この手のホテルは誰にも顔を見られず、入ることができ、かつ誰にも見られず出ることができる。階下の駐車場にクルマをつければ駐車場からそのまま階段を昇り部屋に入れる。  精算はエアーシューター、連絡も内線電話のみだ。更にはホテル側でチェックインを確認した後、遠隔操作で自動的にドアを閉めてしまう。利用が終わった後、黙って帰られると商売にならないのからだ。フロントで部屋のドアを閉められると中からは絶対に開けることはできない。  見たところ頑丈そうなドアだ。少しくらいではびくともしないだろう。 「こっちも商売ですからね。ちょっとやそっとで壊れるようなドアは取り付けたりしませんよ」  フロントで部屋のドアを閉められると中からも外からも開けることはできない。中からはいくら鍵を回しても絶対に動かない。  部屋のドアを開けるにはフロントに連絡するしかない。フロントが開けない限り、まったくの密室になる。    「こっちだって商売上がったりですよ。一泊分の料金取り損ねたし、事件のあったホテルだってんで客も寄りつかなくなったし、おまけにあの部屋はしばらく使えないでしょ。踏んだり蹴ったりですよ」  猫沢市  猫沢署  猫沢駅から歩いて十分。駅裏にある逆さクラゲの建物が立ち並ぶ通り。  現場の床に転がっていたガラスの灰皿で女のケータイを潰したのだろう。拭きとったらしく指紋は検出されなかった。 「心中で指紋を拭きとるか? 」 「そういえば変ですね」 「他殺と考えた方が自然じゃないか」  男と女、それぞれの葬儀。  捜査線上に浮かぶ男。ゲイの医者。しかし、男にはアリバイがある。アリバイを崩さなくてはならない。      クスリはどこで手に入れたんだ。特殊なクスリだろ。誰でも手に入るってわけじゃないんだ。ガイシャにこのクスリを飲んだら死ぬなんて知識があったか。あったとしても何処で手に入れた? 」  23:00 チェックイン  0:00  デリヘルに電話(0;00ちょうどだったのでよく覚えています。テレビのニュースが始まりました。デリヘルの電話受付の男の証言)  0:40  ホテルにチェックイン。フロントに内線電話あり。クルマに忘れ物をしたから開けてくれという。  1:40  フロントに電話  男の声で、「クルマに忘れ物したんで開けてください」 「タバコでも取りに行ったんだと思ってました」  この時刻までは生きていたという。  掃除のオバちゃんが帰ってきたのが、それぞれ0:40、1:40、それからしばらくして電話あり、一時間おきに掃除した。   「ではフロントに電話してドアを開けてもらったときだけは密室状態ではないわけだ。その時に何らかの形で犯人が抜け出したと考える方がスジが通っている」  デリヘルに呼び出すときの名前は木戸と名乗ったという。偽名を使うのは珍しいことではない。  女はメグミ。  ベッド横のごみ箱に風俗雑誌が捨てられていた。ガイシャの女が所属していたデリヘルの広告のページが折られていた。  女が持参していた使い捨ての歯ブラシのセット。練りハミガキ、コップ。使われた形跡はない。袋も破らずにセカンドバッグに入ったままだった。  マニュアルでは二人で一緒に風呂に入り、そこで歯を磨く。バスタブに湯を張った形跡もない。  女のセカンドバッグはブランド物で黒い布地に金の取っ手がついたものだった。プレーのときに使うローションもまったく減っていない。  要するに男と女がことに及ぶ前に二人とも死んでいたということになる。  これは遺体解剖でも裏づけされた。男にも女にも生前情交の痕跡はなかった。    犯行現場には女のものと見られる赤いケータイが鈍器らしきもので潰されて捨て置かれていた。女は迎えの男に部屋に着いたことを連絡(百二十分です)としているからその後で壊されたと考えるのが筋だろう。迎えの男のケータイには着信記録が残っている0:40。鑑識の結果では部屋に備え付けのガラスの灰皿で潰されたものと判明した。灰皿の底の部分にケータイに使われているものと同じ塗料が付着していた。  女はケータイを壊されたことにより、外部との接触手段はフロントとの内線だけになったことになる。  死亡推定時刻は男の方が一時間早い。  検死の間違いじゃないか。  風俗雑誌を見て電話したらしいが、特に指名はなかったという。誰でもよかったらしい。  風俗雑誌のそのページには顔だけモザイクにした女たちが裸に近い格好で映っている。皆、それらしきポーズをとり、写真の下には年齢等のプロフィールとともに〈アナルOK〉とか書いてある。  女は一人暮らしのマンション住まい。昼間はアパレル会社で事務員として働いていた。週末だけのアルバイトをしていたという。  ヤクザのバックはない。  女性誌に〈エステティシャン募集〉の広告を出して人を集めていた。『時給七千円』と言った時点でカンの良い女なら全てを察するという。  不況でボーナスが出なくなったので小遣い欲しさに始めたと言っていた。  一日二箱パーラメントを吸う。ヘビースモーカーだったがホテルの灰皿には吸殻はひとつもない。タバコを吸う暇もなく殺されたと見るのが妥当だろう。  ホテルには「泊まり」だと男の声でフロントに連絡していた。    迎えのクルマは212号室へ入る駐車場の前にクルマをつけて待っていた。見張りの意味もあるらしい。不審な人物は見なかった。 「夜ですよ」 「それでも人が出入りしたのを見わけれるくらいの明かりはついていますよ」  プレーが終わるまで待機していてクルマから一歩も離れなかったわけですな」 「間違いありません」  男はデリヘルを待っていた五十分の間に殺された。  女が部屋につくとケータイで外のクルマに連絡発信時刻は0:40になっていた。一方、男のものと見られるケータイはどこにも見当たらない。ホテルの部屋の電話は内線専用で外にはつながらない。どうやってデリヘルに電話?  「外の公衆電話からでもかけたんでしょ」 「その時点で部屋番号が言えるか」 「……言われてみるとそうですね」 「別のケータイでデリヘルに電話したと考えるのが自然じゃないか」  外電、プレー時間が終わると外のクルマから中の女に対して電話がかけられる。  部屋へ入るには二つの方法がある。ひとつは正面玄関から。ここには部屋の写真がパネルに入って飾られていて、使用中のものはランプが消える。使用されていない部屋はパネルの裏に仕込まれたランプがついている。  もうひとつはクルマで来た人間が使用するもので駐車場にクルマを駐めて、そのまま部屋へ直行するものだ。  女を呼んだときには死体を便所に隠していた。  そのあと無理心中に見せかけて女も殺す。  犯行動機は何だ? 女に対する恨みか。  会社ではゲイとの噂があった。  部下の男に酒席の二次会で二人きりになったとき迫ってきたという。  部下は気持ち悪いので逃げたという。  目撃情報を集めた。 「なかなか集まらないんじゃないか。ラブホテルだろ。不倫とかしてあそこを使ったヤツが名乗り出るとは思えないけどな」  コンビニ店長の目撃情報  男二人がビールやジュース食べるものを買っていく。男の胃袋から検出されたものと一致した。 「男二人? 」 「そうです、防犯ビデオに映っています」 「私がそのときレジを打っていたんですが、一人はベロベロに酔っていました。少し休もうと酔ってない方の人が言ってましたね」 「犯行動機は何だったんだ」  取り調べを終えた柴田に私は訊いた。 「痴情関係のもつれみたいですよ」 「モーホの痴情かよ。想像しただけで肛門が緩くなるぜ」